幹と美樹

27/45
前へ
/45ページ
次へ
「海外に引っ越すことになったの」  七年ぶりに会った彼女は、卒業式に会った日からタイムスリップしたかのように、一ミリの変化もなかった。ベリーショートの黒髪、細面な顔、そして綺麗な薄茶色の瞳。 「そうなんですか」  旦那さんの転勤だそうだ。僕は少し寂しい気持ちになった。年賀状だけで繋がっていた淡白な間柄だったが、その気になればいつでも会いに行ける、という想いがいつもどこかにあった。だからこそ七年間会わなくても繋がっていられたし、僕も彼女もどこかでお互いを意識して生きてきたはずだ。 「じゃあ、文通を送りますね」  僕は彼女から引越し先の住所を教えてもらった。  そこから数カ月に一回、文通を送った。文通の中で、僕は小説を書いていることを、初めて幹先生に告白した。それまで誰にも言ったことがなかったが、書き始めたきっかけをくれた幹先生には知ってほしかった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加