幹と美樹

28/45
前へ
/45ページ
次へ
 幹先生は、ぜひ読んでみたい、と返信をくれた。だが、僕はなぜか無性に恥ずかしくて、自分の書いた小説を読んでもらう勇気が出てこなかった。その代わりに、じゃあ僕が作家デビューしたら買って読んでくださいね、と冗談交じりに綴った。  ――それは楽しみです、と葉書に書かれた幹先生の文字に、僕はどきっとした。たぶん、先生は僕が冗談で『作家デビュー』などど書いたことを理解している。でも、『それは楽しみです』という文字が、踊って見えた。本当に楽しみにしていることが、彼女の文字から伝わってきたのだ。  その日の日記に『本気で作家を目指してみようかな』と書いた。次の日、改めて読み返して『やっぱり目指そう』と決めた。  それまで娯楽でしかなかった小説が、その瞬間――僕にとっては使命に変わった。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加