幹と美樹

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***   幹先生が日本に戻ってからも、文通は続いた。幹先生は、旦那さんが僕の本を読んで感動して泣いた話や、風太くんが社会人デビューした話。僕も奥さんとの他愛ない喧嘩話や、作家業と会社員の兼業の話などを書いて送った。  幾度となく繰り返される手紙のやり取りに、僕はこの関係がいつまで続くのだろう、とぼんやり思った。  ある時を境に、幹先生からの返信のペースがぐっと落ちた。旦那さんが入院して、幹先生が忙しくなってしまったからだった。日本に戻った幹先生はまた教壇に立って国語を教えていたが、旦那さんの入院をきっかけに、教師を辞めた。  僕は幹先生から返事が来ようとも、来なかろうと、一定のペースで手紙を送り続けた。僕の私生活は子供が生まれたこと以外に大きな変化はなかったので、他愛ない近況を送った。迷惑かもしれなかったが、僕は僕で平穏に過ごしているから心配しないで欲しい、ということを彼女に伝えたかった。
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