幹と美樹

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 ――入院して半年後、幹先生の旦那さんが亡くなった。僕は葬儀に参列した。幹先生は、いつも通り無表情だったけれど、入院生活の苦労と、大切な人が去った悲しみで、ぐっと老けて見えた。  風太くんは社会人になってから実家を出たので、幹先生は必然的に一人で家で過ごすことになる。僕は生前のおばあちゃんにもそうしていたように、時間を作っては、たびたび彼女の元へと足を運んだ。  幹先生は僕がやってくるといつも歓迎してくれた。僕は週一回、どんなに忙しくても必ず幹先生の家に行った。他の誰とも代えがたい、幹先生と過ごす大切な時間。  それはいったい――何と形容すればいいのか分からない。    僕にとって幹先生はもはや身体の一部のようなものだった。彼女の教えは今や僕の心や身体に深く深く染み込んでいて、彼女が欠けていると、僕の人生は成り立たなくなる。吸って吐く空気のように、僕の人生において、あって当然であり、ないと生きていけないものだ。  ――気づけば、幹先生と出会ってから、二十年の月日が過ぎていった。
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