幹と美樹

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*** 「もうすぐ桜が咲くわね」  幹先生は、庭の外を眺めながら静かに言った。三月上旬、麗らかな春の訪れ。このとき、僕は五十五歳、幹先生は七十三歳になっていた。 「そうですね」 「そういえば、あなたの名前は桜好きのお祖母様がつけてくれたんだっけ?」 「はい」  懐かしい。そうだ。あの頃はまだ自分の名前にコンプレックスがあった。今ではどうだろう。僕は、自分の名前を、好きだと言えるだろうか。
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