幹と美樹

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 僕は自分のバッグからメモとペンを取り出して、自分の名前を書いた。井上美樹。 「先生は、この名前を見て、どう感じますか?」  僕は幹先生に、そのメモを掲げて見せた。 「――とても、いい名だと思うわ」  先生の素直な返答に、僕はふふっと笑った。 「やっぱりそうですよね」  僕は自分の書いた字を改めて見た。優しく、柔らかく、愛に満ちている。僕はもう、井上美樹という名をもちろん恥じてはいないし、受け入れて、愛している。愛することが、できている。書いた文字が、それを物語っていた。それが分かって、僕は少し涙が出てきた。 「先生、桜が満開になったらお花見に行きましょうね」  えぇ、と幹先生の普段より少し高い声が返ってきた。
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