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夕方になり、別れのときがやってきた。玄関まで見送る幹先生に、ぴしりと向き直った。恥ずかしかったが、ずっと言いたかった言葉を口にしよう。
「幹先生――あなたに出会えてよかったです」
自分の名前が、嫌いだった。自分の気持ちが、分からなかった。想いを言葉にするのが、とても下手だった。
けれど――自分の名前、そして人生を肯定できるようになった。日記を書くようになり、自分の気持ちを知り、将来の道を決めることができた。気持ちを言葉にすることが苦手だった僕が、あなたの小説を読んで感動して泣きました、と感想をもらえるようになった。
悩むたびに、戸惑うたびに、彼女の教えが、僕の背中を優しく押し、正しい道へと導いて――僕にとっての本当の幸福をもたらしてくれた。
「僕は――先生を愛しています。ありがとう」
最後に彼女の細い身体を抱きしめて、手を握って別れた。
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