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いつもだったら絶対にそんなことしないのに――別れたはずの彼女が、道路まで出てきてこちらに手を振っている。
「私も教師になって良かった。あなたがいたおかげで今――心の底からそう思えるわ。どうもありがとう」
彼女は今まで見せたことのない満面の笑みを浮かべていた。
――あぁ、まるで満開の桜のようだ。彼女の背後で、桜が舞うのが見えた。
「また会いましょう!」
彼女は言った。僕はそれに答えられなかった。
ただ、手を振り、笑みを浮かべ、彼女に精一杯の愛と感謝を込めて、心の中でさよならをした。
――ちゃんと笑えていたかどうかは分からない。
でも彼女は最後まで、透き通った薄茶色の瞳で、僕を優しく優しく、いつまでも見つめていた。
幹と美樹【完】
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