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「どうもありがとう、井上くん」
抑揚のない声。何を考えているのか分からない無表情。やっぱりちょっと怖いな、と僕は思った。
幹先生とふと目が合う。そういえばこんな至近距離で彼女の顔を見るのは初めてだった。
色素の薄い、透き通った茶色の瞳だった。澄んでいて、綺麗だ。僕は少しの間、見とれていた。
「幹先生って、目が……綺麗ですね」
気がつけば、そんな言葉を口にしていた。ぽろりと出た言葉に、僕自身が一番びっくりした。きっと幹先生のことだろうから冷たくあしらわれると思った。
けれど――
「そうかしら?」
と、彼女は軽く首を傾げた。じっと僕を見つめる先生と、また、目が合う。
「は、はい……。すごく、その、透き通ってて、綺麗だと思います……」
僕はたどたどしく答えた。思えば、彼女とこうやってまともに会話をするのが、この時初めてだった。
――井上くん、と呼びかけられる。
「は、はいっ……!」
僕は反射的に背筋をビンッと伸ばした。
「――褒めてくれて、どうもありがとう」
――え? 今、僕は感謝されたのか? この、幹先生に? 雑談で?
相変わらず無表情でトーンも一定だけど、僕の雑談に答えてくれた。それが本当にびっくりした。幹先生が僕に喋ってくれた感動で胸がどきどきした。
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