幹と美樹

7/45
前へ
/45ページ
次へ
 幹先生は一番上の僕のノートを手に取り、パラパラとめくっていく。自分の課題を目の前でチェックされていると、どんどん緊張してきたので、僕は黙ってぺこりとお辞儀をして、準備室を出ていこうとした。 「――井上くん」  扉に手をかけたところで、再び背後から幹先生の声が飛んできた。何を言われるのかひやひやしながら振り返る。幹先生は相変わらずの無表情のまま、僕をじいっと見つめている。 「あなた、自分の名前、もう少し丁寧に書きなさい」 「えっ」  課題に関して何か言われるのかと身構えていたので、僕は拍子抜けした。名前を丁寧に書く? 「名前……ですか?」 「そう。自分の名前は、一文字一文字時間をかけて丁寧に書きなさい。そうすれば――」  そうすれば――何かが変わるから。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加