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flour
この情熱を、どうすればいいんだろう?
溢れる愛を、何処に向ければいいんだろう?
いつも、ギラギラと滾るような欲望を抱えて生きてきた。
この、我ながら冷め切ったようなスカした顔からは、誰も予想もできないだろう。
本当の心はずっと隠したまま、オレは仮面を付けるようにして生きてきた。
◇
「ねぇ、洋祐~お願い! どうしてもバイトが足りないからって頼まれてるんだ! 今日だけでいいから、ヘルプに入ってくれよ」
幼馴染の従兄弟から頼まれて、香川洋祐は渋々頷いた。
「もう、わかったよ! 仕方ねぇなぁ……」
「サンキュー♪ バイト代は弾むって、店長が言っていたからソコは安心してよ」
「その代わりに、こき使われるんだろう」
嘆息しながらそう言うと、従兄弟は聞こえないふりをして「じゃあ、flourに7時ね」と告げて去って行った。
まったく、調子のいい男だ。
洋祐は舌打ちをしながら、駅前のベンチに腰を下ろしてポケットからタバコを取り出した。
そうして口に咥えようとしたところ……。
「ここは禁煙ですよ」
と、静かな声が掛けられた。
顔を上げたところ、真面目な顔をしたリーマン風の男と目が合った。
多分、歳は洋祐と同じくらいだろう。
スッと通った鼻筋に、薄い唇。涼やかな目元が印象的だった。
「喫煙室は、向こうです」
「……携帯灰皿なら、ちゃんと持っているけど? 」
「そういう問題じゃありません」
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