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放課後帰宅部の俺はいつものように教室で野崎の部活終わりを待っていた。
野崎はテニス部でシングル、ダブルスとどちらも大会の優勝常連者だ。それも拍車をかけて野崎は学校1のモテ男である。
(やっぱ俺なんかじゃつりあわねーよなー…。)
机にカバンを乗せてそれを枕にするように突っ伏して自嘲気味に笑った。
つりあわない事なんて分かっている。分かっているけれど野崎を手放せないのだ。きっと早く別れた方が野崎の為だと思う。
俺なんかにかまってないで可愛くて野崎につりあった彼女を見つけた方がいいのだ。
分かっているのに野崎の優しい笑顔を見る度に離せなくなる。
(あぁ...もう俺駄目だな...。)
胸がキリキリして苦しい。涙が出そうだ。
すんっ、と鼻を鳴らしたと同時に教室のドアがガラッ、とあいた。
「関田おまたせー。」
心地の良い低音かつ爽やかな声にもそりと顔をあげる。そこには優しく笑う野崎がいてそれだけで出そうだった涙がひっこんだ。
我ながら単純な奴だと思う。
「...遅い。」
けれど口から出るのは可愛くない悪態ばかり。
男子高校生が可愛いのも可笑しな話だけれど。
「ごめんごめん。」
優しく笑う野崎にほっ、としつつ野崎に駆け寄った。
帰ろう、と視線で言えば野崎は肯定のかわりにまた優しく笑う。
「...っ...」
その笑顔にきゅんっ、ときながらも赤くなる頬を隠すように下を向いた。
俺は野崎のその表情に弱いのだ。
高鳴る胸の音を聞かれてしまいそうで怖くて密かに左胸当たりのシャツをきゅっ、と掴んだのだった。
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