第01章 : 放課後告白タイム

2/6
前へ
/155ページ
次へ
♪ Won Chu KissMe …… ♬  大好きなアニメのOP曲を、僕のスマホが「起きろ!」と言わんばかりに爆音で鳴らす。 「もう7時か……」  独り言をこぼし起き上がる。  あれだけ恐怖に駆られ、怯えた夜を過ごしても朝は来る。  人間という生き物は、きっと睡眠欲には負けるのだろう。 【欲】という物は、ある意味怖いものだ。 「明けない夜は無い!!」  カーテンを勢い良く【シャーっ】とさせて、カッコいいポーズを決め込む。  出口の見えない中二病。そして自室を出る。  地方に建つ一般的な一軒家の階段を降り、1階にあるリビングのソファーに腰を下ろしTVの電源を入れる。  毎日決まった行動。  ルーティーンとでもカッコよく言っておこうかな。  すると、本日2度目のスマホが鳴る。 「おっはよぉ可愛い息子ちゃん! 起きてる?」 「起きてるから電話に出たんでしょ……」  テンション高めの電話の主に、僕は気怠そうに返事をする。 「あらまぁ。相変わらず愛想の無い子ね!? 名前に愛想の 愛 が入っているんだから、もう少し愛想良くしなさいよ」 「はいはい分かりました。さっさと寝ろ」  そう伝えて勢いよく電話を切ってやった。  これもまたルーティーン、……かな。  僕の家は母子家庭で、母親は仕事で海外に居る。  そんな母親は、離れて一人暮らしする息子を心配してなのか、毎朝必ず電話をかけてくる。  心配してくれてるのは理解しているのだが、起床数分で【母ちゃん】という生き物の相手は正直キツイ。その一言に尽きる。  しかしながら海外住みで時差の中、母親側は夜中だというのに、毎日欠かさず電話をくれる事。  そして、母子家庭ながらも何不自由無く今日まで育ててくれた事に、素直に感謝はしている。  が、思春期の僕ときたら、それを母親に伝える素直さというパフォーマンスを、幼少期に置き去りにしたままだった。 『いつか大人になれたら、素直に本心で伝えられるのかな……?』  男児だというのに、愛に兎で 愛兎(まなと) と書き、女児っぽくもキラキラした名前を付けた父親は、僕が5歳の時に家を出たらしい。  名前には大切な意味が有るらしいのだが、父親本人に聞く事も出来ないままに居なくなってしまった。 「持ち家を建ててから出て行ってくれた事が、唯一の幸せね」  と口癖の様に言っていた母親に、子供ながら『顔すら覚えていない父親の話はご法度』と察して生きてきた僕は、5歳より前の事を詳しく聞いた事は無かった。  1つだけ知っている事は、父親が家を出たと同時期に、僕と母親が母親の旧姓 井向(いむかい)に名字を変えた事だった。  久しぶりに思い出した過去を考えながら、適当に食パンを焼き、適当にマーガリンを塗り、適当に食べる。  食にあまり興味が無い為か、食に対しては適当になってしまう。  朝食を済ませ制服に着替えた僕は、念入りに歯を磨き、念入りに顔を洗い、念入りに髪をセットする。  モテたい願望最前線な為か、身だしなみに対しては念入りに行う。  これは基本中の基本で、いつかテストに出るだろう。  爽やかな風を受ながら、15分程自転車を転がすと、私立美空学園に到着する。  自分で言うのもアレなのだが、進学校で偏差値もソコソコ。  母親が無理してでもし、私立に通わせてくれている事にも感謝している。  それを表す行動の1つで、勉学だけは真面目に取り組み、それなりの成績を収めている。  なんだか今日は、朝から母親の事ばかり考えているなんて、マザーなコンプレックスなのか? と少し頬が熱くなってしまった僕は、2-Cの教室を目指した。
/155ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加