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第02章 : 優零と名付けた日
帰宅した僕は、夕食の準備を始める為にキッチンに立つ。
「今日は家で飯食ってけよ」
と涼が誘ってはくれたのだが、放課後の雰囲気のまま涼と過ごすのも気まずい為断った。
「あまり涼の家に迷惑を掛けてしまうのも申し訳ないからさ」
そういう断り文句を言える程に、少しは成長したのかな?
と自分に酔いながらニヤニヤしてしまう僕は、救いようのない極度のナルシストなのかもしれない。
背丈程ある冷蔵庫を覗くと、これといった食材が無い事に今更気付く。
『涼の誘いを何故断ったんだ……』
後悔しても、後の祭りってヤツだ。
スマホは19:30を表示している。今からスーパーまで自転車を転がす気力も体力もない。
だがしかし。
夕食がカップ麺になるのは困る。とんこつショウガ味なんぞ食べた日には、家のインターホンは鳴り止まないだろう……。
そんな事されたら疑心暗鬼になってしまう。
『買い物にいくしかないかぁ……』
幸い僕の住む街は、自動車もソコソコ走っているし、牛(べコ)が道を歩いてる所を見た事はない。
逆に、この時間から高校生が外出でもしたものら、巡査(おまわり)さんにぐーるぐる巻にされてしまうかもしれない。
仮に19:30に補導される高校生だとしたら、それはそれで問題なのだが。
『今日はファミレスのデリバリーにしよう』
そう心に決めて、スマホでメニューを選んだ。
ファミレスのデリバリーというサービスは【〇〇円以上で配達】等が多く、一暮らしの僕としては毎回のメニュー選びが重要である。
食には興味無いが【得する】事を前提として考えたいものだ。
高いメインヒロインを頼んで、サイドメニューならぬ飾りアイテムを頼むか。
それとも、モブキャラゾーンを沢山頼んでハーレム気分を決め込むか。
それはそれは、悩ましい限りである。
【とてつもなく豪華なディナー重】
【シェフのありきたりサラダ】
僕はメインヒロイン型でオーダーしてやった。
断然ハーレムより一途を選ぶ僕。何故ならば、白百合一途な僕。
またまた放課後の記憶がよみがえり、今度は僕の頬が【チェリー色】に染まっているではないか……。
困ったものだよ。
メインヒロイン弁当……。いや間違えた。【とてつもなく豪華なディナー重】と【シェフのありきたりサラダ】が到着するまで30分程ある。
ソファーに転がりTVの電源を入れた。
高2の一人暮らしの僕が、デリバリー弁当を食したり。
今まさにTVを見る為に電気を使用する料金が払えていたり。
服やマンガを買えたり。
学校に行けたり。
言い出せばキリが無いが、全て母親からの仕送りで賄われている。
毎月、僕の口座に振り込まれる生活費を、僕なりに考えながら使う生活。
「足りない時は言いなさいよ」
朝の電話で母親は良く言うが、一度も追加を頼んだ事はない。
それがせめてものルールだと思っている。
色々な家族の形があり、色々な状況があると思う。
何が【正解】かなんて僕にはまだ解らないけれど、僕の中での母親との家族の形は【間違い】ではないと思っている。
そんな事を考えながら天井を仰ぐ僕は、やはりマザーなコンプレックスなのかもしれないが、これも【間違い】ではないとしておこう。
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