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数分後、改札から出てきた男性が夕梨花に近づくのに気づいた。細身で中背、髪は短く、黒いシャツに濃いめのデニムを履いて、小型のリュックを右肩に掛けているその男性は、顔を覗き込むようにしながら夕梨花に話しかけた。
私はそっと、二人がいる柱の側面に移動した。
「はじめまして。って言うのも変か」
「はじめまして」
互いの名前の確認を終えたらしい二人は、あいさつを交わしているところだった。
「ホント写真どおりだね。かわいい」
その言葉を聞いて、胸がズキンとした。
もしここに、夕梨花ではなく私が立っていたら、たいきくんの反応はどうなってしまっていただろう……?
「あ……、どうも。たい……きくんも、写真のまんま……」
「ハハ、そう? 良かった、ガッカリされなくて」
そう言って笑ったたいきくんの顔を、私は怪しまれないように辺りを見回すフリをしながら見た。
胸がきゅううと締めつけられる。
そこにいるのは、紛れもなく私がスマホの中で恋い焦がれたたいきくんの実物だった。
こんなに近くにたいきくんがいる。“まいか”に会いに来てくれたたいきくんが。
そう思うと、嬉しい反面、私が舞香だと名乗り出られない悔しさと悲しさで、泣いてしまいたくなった。
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