ようこそ悪夢へ

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 ウロボロスの世界樹に一人の男が辿り着いた。  そこには松明もなく。光源は夜空に浮かんだ白い月。ここはカルダの村の最奥。村人は一人一人と二グレド族の村へと旅に出たが、数人のシャーマンは未だ残っているようだ。  闇夜を覆う陰鬱な森の奥にあるウロボロスの世界樹の前で、一人の男は無言で佇んでいた。その男は夜の森を一日中歩いてきたようで、白いチノパンと白いワイシャツの薄着は、生い茂る野草や林立する木々についた雫でひどく濡れていた。その男はナップザックから右手で水筒を取り出し、左手で錠剤を取り出した。  その錠剤をウロボロスの蛇の口に挟み、強引に口を押し広げていくと、水筒で水と一緒に錠剤を口に流しこんだ。  しばらくして、蛇はその得体の知れない薬を呑み込んだようだ。  男はニッと笑って倒れた。男の足には恐ろしい毒蛇が噛みついていたようだ。  ボロ布を纏った複数のシャーマンがどこからか現れ、その男に恭しく頭を下げていく。  だが、その男は既に事切れていて、さっき呑まされた薬のためかウロボロスの蛇は目をゆっくりと開けた。     ここは二グレド族の村。  カルダの村からかなり離れた広場の中央には、幾つもの女や子供の死骸が山のように積まれていた。悲鳴や怒号が鳴り響いている只中。武装した集団が村を襲撃していた。 「倒れた奴から息の根を確実に止めろ! 怪我人はハンスさんのところまで誰か連れてってやれ!」  アサルトライフルを乱射し、村人がほとんど死んだ二グレド族の村でベンは指揮を取っていた。他にニコ、トマス、ジョージがいる。ハンスは元軍医であった。  長老やバリエも銃弾によってすでに倒れていた。  蒼穹の戦士たちは雄々しく応戦するが、槍や弓では当然銃には敵わなかった。  一人の少女が長老の亡骸に近づいた。  こんな残酷な仕打ちを意に介していないかのように、長老の耳元で囁いた。 「あのね、長老……私。また、空が見えるの」  ベンたち武装集団は、皆傭兵であった。相当高額な金でしか動かないが、何でもしてくれるといわれる便利な傭兵で、裏の世界の人々からは「魔法のちりとり」と言われていた。 「怪我人は?」  ベンは暑さによって、今も流れ落ちる汗を迷彩色のタオルで拭いながら、ハンスに言った。ハンスは首を傾げて、こう言った。 「いえ、それがさっきまで負傷していたはずのニコが、今怪我をした腕を診たら傷口が治っているんですよ……まるで夢の中です。確かにニコの腕には、弓でやられた時の血が流れた形跡があるのに……」  広場の中央での会話である。ベンは後ろの亡骸の山を見ては、この奇妙な依頼を訝しんだ。アサルトライフルを地面に置くと、携帯に表示された依頼料の金額の0を数えて、両手を一杯に広げて高らかに笑った。ニコとハンスも一緒に笑った。 「ほんとに。とんでもない額に、とんでもない仕事だな。死体が生き返っても俺は決して驚かないぞ!」  さっきまで元気だった長老の傍らの少女は、額に銃弾を受けて倒れていた。
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