始原の夜

4/5
前へ
/8ページ
次へ
「赤羽さん! 落ち着いて! 南米に行けば何とかなるわ! まずは恵ちゃんたちを探しだすのよ! その後に必ず行きましょ!」  私はハッとした。 「ああ! その手があったんだ! ウロボロスか!」  真理は急に随分と肩の力を抜いた。 「そうよ。私たちの手で再び世界を救いましょ。あなたがいれば幾らでも世界は救えるはずよ……。赤羽さん……。あのね、これは夢の氾濫よ。現実が一発で破壊されたのよ。しかも世界中でね……だから、ウロボロスの蛇をまた眠らせないといけない」 「了解!」  私はやっと動揺を捨て、落ち着きを取り戻した。腕の怪我は夢の世界なので、すでに治っている。  満点の星空を見て、何故だかロマンチックな気持ちも抱けなくもない。だが、下は鋭い悲鳴や怒号までもが鳴り響いている……。    ここは、やっぱり悪夢の世界なんだな。  藤代駅が下方に見えて来た。  その時、鋭利な闇が私と真理目掛けて降って来た。  私はその一本の線を、なんなく空中で力を使って変容させる。 「ナイス! 赤羽さん! 下も危険だけど、早く降りましょ!」  元気な真理の声に頷いて、私は藤代駅のホームへと降りた。当然、切符は買っていない……。  真理が停車している常磐線を見つめ。 「大丈夫よ! この電車は安全よ!」  嬉しそうに私の肩を叩いて誰もない電車へ乗車した。  私たちは照明の点いていない真っ暗な車両へ入ると、すぐに扉が閉まった。  ここから東京の上野駅まで約50分。  さすがに居眠りはしない方がいいだろう。   「このまま乗っていましょ」  真理は座席に平然と座る。  もう危険はないだろうと、私も座席へと座った。 「そういえば、ホームもこの電車の中も誰もいない」  「ええ……」  真理はコックリと首を私にもたげて寝息を立てた。 「赤羽さん……これから、多分キラーが多く出てくるわ……」  真理は眠ってしまった。  どうやらかなり疲れていたのだろう。  真理は一体? 藤代駅まで何で来たのだろうか?  考えてもしょうがない。  私は車窓から夜空を見上げ、一人溜息を吐いていた。  電車は快速電車だった。普段よりも5分か10分早く着くようだ。  目的地は今のところ日暮里か上野駅だ。  ディオはどうしているのだろう? 土浦のヘルユメにはいなかった。旅にでもでてしまったのならもう見つからないのだろう。  あるいはディオのことなので、ひょっこりとでて来るかも知れないな。  常磐線は何事もなく上野駅へと到着した。  日暮里駅を意図的に避けた真理が、ホームに降り立った後、不可解なことを言って震えだした。 「ここ……上野駅じゃない!」  暗闇の中。駅のホームは、普通の外観を保っている。  私は真理に問いかけようとした……だが?!  突如、幾つものガラス窓が割れ、巨大な爬虫類の姿が窓の外で這い回っていた。 何故かそれは私には巨大な……ワニに見えた。   「赤羽さん! ここは危険よ! 多分なんだけど、言いづらいけど……すでに、何かの腹の中よ!」 「え!?」  後ろを振り向くと、すでに常磐線は溶けだしていた。 「何かの腹の中だって!?」  「そう、多分大きな爬虫類の腹の中よ!」  真理の悲鳴のような声が辺りに鳴り響いた。  私はさっき見た巨大なワニを思い浮かべる。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加