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 一月一日。この日は吉原の大門も閉じられ、全ての妓楼は休業する。各妓楼では大広間に楼主以下全員が勢揃いし、雑煮でこの日を祝うことになっている。  青年は門松の飾られた仲の町を急ぎ足で歩いていた。  青年の名は四郎兵衛といい、年齢は十七位で長身な体躯であった。彼は吉原京町一丁目にある三浦屋という大見世の雇い人で、普段は大門を入って右手にある吉原会所に常駐して、女が大門を出るのを監視している。  そんな彼が雑煮を早々に食し、少し焦ったように向かっているのはやはり会所だ。 程無くして大門まで着くと四郎兵衛はその脇にある会所の引き戸を開けて中に入った。そして、 「あった、ここに忘れていたのか」 文机に置き忘れていた匕首を取り上げ、懐にしまう。
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