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「黒崎、ちょっと・・・」
金曜の夜。
仕事が終わり、帰ろうと思ったところで署長に声をかけられた。
嫌な予感。
振り向くと、署長はオレに向かって両手を合わせた。
「すまん!その・・・すごく申し訳ないんだけどな、明日も出勤してほしいんだ。どうしてもおまえに頼みたいって、岩田本部長から連絡があって」
「・・・」
(あの野郎・・・)
こうして休日がつぶされるのは、これで何度目になるだろう。
周りの奴らの、気の毒そうな声もする。
「うわ・・・またじゃん、黒崎さん」
「仕方ないだろ・・・。羽鳥さんだぞ?あの羽鳥さんと婚約したって話だろ?別れさせたいんだよ、本部長」
「まあ、わからないでもないけどな・・・」
(・・・こいつら・・・)
聞こえてんぞ。
ギロリと睨むと、はっとしたように全員慌てて席を立つ。
・・・わかってる。
オレが、咲良に不釣り合いだってことも、本部長の策略も。
そんなことは、オレが一番わかってるけど。
「それ、ほんとにオレじゃないとダメなんですか。ここ二か月以上、一日も休みがないんですけど」
退院後、咲良の家に挨拶に行って、仕事復帰してから約二か月。
オレには一日たりとも休みがなかった。
予定では一応あるんだが、全て、「黒崎にしか頼めない」って理由で直前に仕事を入れられる。本部長の差し金で。
「い、いや・・・俺も、申し訳ないとは思ってるんだ。けど、本部長直々の指示なわけだから。こっちはほら、従わないわけにもいかないだろう」
「・・・そうですかね」
「ほ、ほら、仕事なんて、やってみるまでわからないぞ!今度こそ、本当におまえにしか頼めないようなことかもしれない」
「・・・」
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