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「だからそのとき結婚しよう」
「は?」
「結婚しよう、ゲンちゃん」
にっこり笑ったあたしを見たまま、ゲンちゃんは「は?」という顔で固まっている。
あたしはゲンちゃんのほっぺを、手のひらでぺちんと叩いた。
「わかった? ゲンちゃん」
「え……でも……」
「でもなによ?」
「そのとき俺、何歳だと思ってんだよ? お前とは全然釣り合わない……」
「何歳でもかまわないよ。あたしがゲンちゃんを拾って、本当の家族になる。そして一生面倒みてあげる。なにか不満ある?」
「いや……」
ゲンちゃんはそこでいったん言葉を止めてから、まっすぐあたしを見つめて言った。
「不満なんかあるはずない」
心の奥が、ふんわりとあたたかくなる。
「じゃあそれまで彼女作んないでよ。わかった?」
あたしがもう一度ほっぺを叩くと、ゲンちゃんがやっと、いつもの憎らしい笑顔を見せた。
「わかりました。そのかわりお前も、変な男に引っかかるなよ?」
「ゲンちゃんより変な男はいないよ」
あたしはにっと笑って、ゲンちゃんから離れる。
「じゃ、また」
軽く手を上げてそう言ったら、ゲンちゃんも手を上げて言った。
「おう、またな」
春風が吹く中で、ゲンちゃんが笑った。
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