春風が吹くころに 3

4/5
前へ
/211ページ
次へ
 桜の木の向こうに高いビルが見える。その上の空の色が、オレンジから藍色に変わっていく。もうすぐ今日が終わって明日になる。明日、あさって……あたしが大人になるのはいつだろう。 「あたし、ママのところに戻るから」  制服のスカートを揺らし、ブランコを勢いよくこぎながら言った。 「自分で考えてそう決めた」  ゲンちゃんはやっぱりなにも言わない。あたしはもっとブランコをこぐ。このまま空まで飛んで行っちゃいそうなくらい高くこぐ。  そしてあたりが薄暗くなってきたころ、あたしはブランコに座り、足を地面にこすって止めた。 「ねぇ、ゲンちゃん」  ゲンちゃんはまだそこにいた。なにもしゃべらないくせに、まだぼんやりとそこに座っていた。 「あの日……あの雪の降った日……なんであたしのこと、連れて行ったの?」  寒くて、手足の感覚もなくなって、なにも考えられなくなっていたあたしを……なんで抱き上げてくれたの?
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加