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桜の木の向こうに高いビルが見える。その上の空の色が、オレンジから藍色に変わっていく。もうすぐ今日が終わって明日になる。明日、あさって……あたしが大人になるのはいつだろう。
「あたし、ママのところに戻るから」
制服のスカートを揺らし、ブランコを勢いよくこぎながら言った。
「自分で考えてそう決めた」
ゲンちゃんはやっぱりなにも言わない。あたしはもっとブランコをこぐ。このまま空まで飛んで行っちゃいそうなくらい高くこぐ。
そしてあたりが薄暗くなってきたころ、あたしはブランコに座り、足を地面にこすって止めた。
「ねぇ、ゲンちゃん」
ゲンちゃんはまだそこにいた。なにもしゃべらないくせに、まだぼんやりとそこに座っていた。
「あの日……あの雪の降った日……なんであたしのこと、連れて行ったの?」
寒くて、手足の感覚もなくなって、なにも考えられなくなっていたあたしを……なんで抱き上げてくれたの?
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