春風が吹くころに 3

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「たまたまそこにいたから?」  ゲンちゃんは答えない。 「あたしが、かわいそうだったから?」  ゲンちゃんはまだ黙ってる。 「あたしをさらって、お金をもらおうとしたから?」  あたしはなにも言わないゲンちゃんを見る。 「ねぇ、ゲンちゃん、なんで……」 「かわいかったからだよ!」  あたしの体がびくんっとはねた。ゲンちゃんはブランコを乱暴に揺らして立ち上がり、あたしを見下ろして怒鳴る。 「かわいかったからに決まってるだろ!」 「な、なに……それ……」  あたしはぶるぶると体を震わせながら、ゲンちゃんの前に立ち上がる。 「なにそれ! かわいいからって、ママに黙って連れてくって……それ犯罪じゃん! 誘拐犯! 変態! ロリコン!」 「うるせぇ! 黙れ! 俺はいまでも、かわいいって思ってるよ! しょっちゅうお前のことばっか、考えてるんだよ!」  一瞬呼吸が止まった。気がついたらあたしは、ゲンちゃんにぎゅうっと抱きしめられていた。 「ゲンちゃ……」 「悪かったな……ロリコンで」  あたしの顔がゲンちゃんのジャケットの中に押し付けられる。息が苦しくて、タバコ臭い。  だけどあたしはもそもそと手を動かして、ゲンちゃんの背中をやっぱりぎゅうって抱きしめた。 「いろは」  ゲンちゃんの大きな手が、あたしの伸びかけの髪をそっとなでる。 「元気で……」  そうつぶやいたゲンちゃんの声はすごくかすれていて、泣いているみたいだった。
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