51人が本棚に入れています
本棚に追加
「たまたまそこにいたから?」
ゲンちゃんは答えない。
「あたしが、かわいそうだったから?」
ゲンちゃんはまだ黙ってる。
「あたしをさらって、お金をもらおうとしたから?」
あたしはなにも言わないゲンちゃんを見る。
「ねぇ、ゲンちゃん、なんで……」
「かわいかったからだよ!」
あたしの体がびくんっとはねた。ゲンちゃんはブランコを乱暴に揺らして立ち上がり、あたしを見下ろして怒鳴る。
「かわいかったからに決まってるだろ!」
「な、なに……それ……」
あたしはぶるぶると体を震わせながら、ゲンちゃんの前に立ち上がる。
「なにそれ! かわいいからって、ママに黙って連れてくって……それ犯罪じゃん! 誘拐犯! 変態! ロリコン!」
「うるせぇ! 黙れ! 俺はいまでも、かわいいって思ってるよ! しょっちゅうお前のことばっか、考えてるんだよ!」
一瞬呼吸が止まった。気がついたらあたしは、ゲンちゃんにぎゅうっと抱きしめられていた。
「ゲンちゃ……」
「悪かったな……ロリコンで」
あたしの顔がゲンちゃんのジャケットの中に押し付けられる。息が苦しくて、タバコ臭い。
だけどあたしはもそもそと手を動かして、ゲンちゃんの背中をやっぱりぎゅうって抱きしめた。
「いろは」
ゲンちゃんの大きな手が、あたしの伸びかけの髪をそっとなでる。
「元気で……」
そうつぶやいたゲンちゃんの声はすごくかすれていて、泣いているみたいだった。
最初のコメントを投稿しよう!