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春風が吹くころに 4
公園を出たあとゲンちゃんとコンビニに寄って、お弁当をふたつ買った。家に帰ってテレビを見ながらこたつで食べて、順番にお風呂に入って、ミルクにご飯をあげて、別々の部屋で寝た。最後の夜のはずなのに、いつもとおんなじ夜で、なんだかそれが不思議だった。
眠れないかもと思ったのにぐっすり眠ってしまい、気がついたら朝になっていた。
あたしは自分の部屋の鏡の前で、誕生日に風花からもらったリップをつけてみる。唇がすうっと淡いさくら色に染まって、なんだかすごく変な気分だ。
それから修学旅行のときに買ってもらった大きなバッグに、周りのものを入るだけ詰め込み、部屋を出る。
隣の部屋にゲンちゃんはいなかった。代わりにミルクがゲンちゃんのパソコンの前で「みー」と鳴くから、あたしはミルクを抱きしめてお別れを言った。
玄関ドアを開けて屋上へ出る。空はゲンちゃんが描く絵みたいなやわらかい水色で、ふんわりとした風が吹いていた。
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