春風が吹くころに 4

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「ゲンちゃん」  ゲンちゃんは手すりにもたれて、空に向かってタバコの煙をはいている。 「タバコやめなよ」 「お前がいなくなったらやめるよ」  あたしはまっすぐ歩いて、ゲンちゃんの手からタバコを取り上げ灰皿で消した。 「いますぐやめて」 「うっせぇなぁ、お前は」  ゲンちゃんが頭をかきながら、めんどくさそうにあたしを見る。あたしはそんなゲンちゃんに、にっと白い歯を見せる。 「じゃあ、行くね」 「あ、ちょっと待て」  ゲンちゃんはジーンズのお尻のポケットから何かを取り出して、あたしに差し出した。 「これ持ってけ」  あたしの目の前にあるのは、銀行の通帳と印鑑。そっと手に取り見てみると、あたしの名前が書いてあった。 「ママから巻き上げた金は全部ここに入れてある。お前が大学行くとき、使おうと思って」  あたしは黙って通帳を開いた。わずかずつだけど、お金が定期的に入金されている。
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