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「ゲンちゃん……」
「いいからもってけ。金持ちのパパができるなら、いらないだろうけど」
「違う。こことここ、それからここも……お金引き出されてる。なにかに使ったの?」
あたしがところどころ出金されている数字をさすと、ゲンちゃんがちょっとあわてた。
「いや、ちょっと借りただけだよ。ほら、このあとちゃんと戻してあるだろ?」
ゲンちゃんが通帳をのぞきこんで、指をさす。あたしの頭とゲンちゃんの頭がくっつきそうになる。やっぱりゲンちゃんはタバコ臭い。
あたしはそっと通帳を閉じ、印鑑と一緒にバッグにしまった。
「ありがと。大切に使う」
「おう」
「でもあたし、大人になったらここに戻ってくるから」
「へ?」
ゲンちゃんがマヌケな声を出す。
「昨日の情けないゲンちゃん見たら、やっぱり考え変えた」
あたしは春の空気をすうっと吸い込み、言葉と一緒にそれをはく。
「なにができるようになったら、大人になるのかわかんないけど……ちゃんと進路決めて高校卒業したあと、とりあえずここに戻ってくるよ」
大人になったらあたしは自由だって、ナナちゃんが教えてくれた。
ゲンちゃんはあたしの前でぽかんと口を開けている。まったくしょうがない大人だな。
あたしはそんなしょうがないゲンちゃんに向かって、とどめを刺す。
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