ハロウィンの夜の訪問者

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* (親父、おふくろ…許してくれ!!) 大学入試の前夜…… 俺は、親父達の汗と涙の染みこんだ貯金通帳を持って、家を出た。 「義昭、頑張れよ!」 「あなたなら絶対大丈夫よ!」 大学の入試に行くのだと信じて疑わない両親に、俺は心の中で詫びながら、作り笑顔で手を振って…… そのまま、俺は憧れの地、イギリスに旅立った。 金があることを知ってしまった俺は、もうどうにも自分の気持ちを止められなかった。 今だ…!今こそが、夢をかなえる一度っきりのチャンスなんだ! そう思う俺の心に、迷いはなかった。 ただ、両親に対する罪悪感は重くのしかかってはきたものの、俺のロックに対するたぎる想いがそんなものをも凌駕した。 俺の愛するハードロックを、どうしても本場で体感したかったんだ。 俺は部屋に置手紙をし、イギリスに着いてから短い電話をかけた。 その時の親父に怒りようといったら……今思い出しても震えが走る。 俺は、帰ったら必ず大学に通うことと、週に一度は手紙を出すことを約束し、どうにかこうにか親父の怒りを静めた。 いや、言うことだけ言って、電話代が高いからと一方的に電話を切ったんだ。 あまりにも憧れが大きすぎて、心配事なんて少しもなかったけれど、実際に行ってみてもその想いは少しも変わらなかった。 まずいと聞いてた食事も、思った程まずくはなかった。 小さなパブでは毎日のように熱いライブが行われ、地元のファンと一体になってノリまくった。 時には町で有名なミュージシャンに出会うこともあったし、ただただ毎日が楽しくて楽しくて…… ビザの関係もあるから、俺はヨーロッパの国々を旅行して回った。 行く先々で、地元のロックを聞きまくり、俺のロック魂はとにかく熱さを増すばかりだった。 一年も経つ頃には、俺の周りには友達もたくさんいて、元々得意だった英語はネイティブと間違えられる程になっていた。 ずっとイギリスで生活したいというのが本音だったけど、どんなに節約していても金はどんどん減っていく…そして、ついには底をつき、俺は仕方なく帰国することを決めた。
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