ハロウィンの夜の訪問者

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「……いかがですか?」 「え…い、いやぁ…そ、その……あ!空気がうまいですね。」 家のことよりも周りの環境のことで俺はすっかり混乱していて、どう感想を言えば良いのかわからず、なんとも馬鹿なことを口走ってしまった。 「……なんたって駅までバスで一時間かかりますからねぇ……」 不動産屋はそう言って苦笑する。 「バス?駅前までバスがあるんですか?」 「ええ、まぁ…」 確かにここは不便だけれど、バスがあるならなんとかなるんじゃないか!? そう思うと、途端に、俺の心に希望の光が点った。 「こんな辺鄙な所ではありますが…その代わり、バンドの練習なんかには良いんじゃないですか? ここだったら、多少大きな音を出しても平気ですよ。」 「えっ!?」 その言葉は、俺にはまるで呪文みたいに聞こえた。 そうか、ここだったら、マジでバンドの練習も出来るし、ヘッドホンをつけずに、好きな音楽を大音響で聞くことだって出来るんだ…! 「俺、契約します! ここに決めます!」 「そうですか……あ…でも、実はもうひとつ……」 「な、何なんですか!? 今頃になって、実は事故物件なんだなんて言わないで下さいよ。」 「だから~…そういうのはありませんって! ただ、ここはオーナー様のご希望で、最低、週に一度、畑仕事を手伝わなければならないんです。 その代わり、新鮮な野菜やお米がいただけますよ。」 「えっ!新鮮な野菜や米が……」 なんてことだ。 野菜や米がもらえたら、食費の助けになるじゃないか! 「やります!やります! だから、俺に貸して下さい!」 「わかりました。 とにかく、中をご案内します。」
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