ハロウィンの夜の訪問者

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「僕は静かな環境で集中して勉強がしたいんだ。 騒音はやめてくれよ。」 「ハードロックを騒音呼ばわりするな! 俺は、ここなら大音響でロックが聴けると思って借りたんだぞ!」 俺達は最初からうまくいかなかった。 とにかくなんでも正反対な俺達だから、それも当然。 さらに、契約してからわかったんだけど、バス停までは徒歩三十分、しかも、バスは一時間に一本しか来ない! それには愕然としたけれど、格安なんだから仕方がないよな。 しかも、オーナーさんがすごく良い人で、俺の部屋に防音設備までつけてくれたんだ。 そのおかげで騒音問題は解決したものの、あいつは相変わらず態度が悪くて、ウマが合わなかった。 けど、なんといっても一緒にいる時間は長い。 同じ大学だし、バイト先も同じ駅前の商店街だし、年下だと思ってたあいつとは年も同じだし、甘いものが好きだという共通点まであるにはあったけど、それがわかってもよそよそしい関係は続いてて…… それが、ある時、風邪をひいたあいつの看病をしてからというもの、あいつは急に心を開いてくれたっていうのか、いろんなことを話してくれたんだ。 龍之介の家は所謂エリート家族で、末っ子のあいつだけがそうじゃなかった。 そのことで親からも兄弟からも馬鹿にされ、ある時、「おまえの頭脳じゃ、●大はおろか、◆大だって絶対無理だな。」って言われたらしい。 その時から龍之介は死に物狂いで勉強し、四回目にしてようやく◆大に合格した。 そして、合格通知を家族に見せつけ、「あんたらとはもう縁を切る!」と言い放って、家を飛び出して来たとのことだった。 「おまえもけっこう苦労してるんだな。」 「同情なら不要だ。 僕は勉強が大好きだから、他人よりたくさん勉強出来て、幸せなんだ。」 これを負け惜しみと取るべきなのか、それとも、ポジティブシンキングと取るべきなのかは迷う所だ。 そんな龍之介と暮らし始めて四年後、俺は無事に大学を卒業。 両親はとても喜んでくれたけど、その後、しばらくフリーター生活をすることを話すとまた激怒。 だって、俺はまだ夢を叶えてないんだから。 世界に通用するような、バリバリのロックバンドを作るって夢を…
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