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16.儀式の終わり
再び着物に着替えて、鳳凰の間に戻った。
鳥籠の前に白い座布団が二枚並べられており、隆人と遥はそこに座った。
一段下がった次の間との間の襖は開かれ、樺沢本家当主の達夫と世話係全員が平伏して控えている。
隆人が静かに口を開いた。
「無事に夏鎮めの祈りを捧げることができた。まことに重畳。皆のものには礼を言う。大儀であった」
「ありがたき幸せに存じます」
達夫の声も静かだ。
「今年は新たなる凰を迎えることができ、よい雨も降った。この夏、水に困ることはなかろう」
「祝着至極に存じます」
「今このときを以て夏鎮めの儀を果たしたことを宣する。一族郎党に知らしめよ」
「心得ましてございます」
皆が居住まいを整え、改めて深く頭を下げつつ、声をそろえて言った。
「おめでとう、存じます」
うむと隆人が満足そうに頷いた。そして立ち上がった。
「着替える」
「かしこまりましてございます。中奥に御仕度させていただきます」
碧が答えると、頭を下げて立ち上がり、控えの間を出ていった。
「遥も着替えさせろ」
「かしこまりましてございます」
こちらは俊介が答えた。
「中奥に御仕度させていただきます」
俊介とともに湊たちが下がり、残った則之が頭を下げた。
「わたくしめが凰様のご案内役を務めさせていただきます」
「まかせた」と隆人が答えた。
木戸までは隆人とは同じ廊下を歩いた。それをくぐると、隆人が微笑みながら遥の頬に指先で触れた。
「今夜もお前の部屋に行く」
胸がどきりと鳴った。
「いいのか?」
「悪いのか?」
からかいの反問に遥はほんの少し口を尖らせ、首を左右に振った。隆人の指が耳の形をなぞり、首筋をたどった。
「少し仕事を片付けるから、眠っていてもいいぞ」
「わかった」
大人しく頷いた。
「では、後でな」
指が離れ、隆人も去って行った。遥はその後ろ姿を見つめる。隆人が廊下を曲がりきるのまで見て、はっとして則之を見上げた。
則之が頷いた。
「では参りましょう」
遥は何だか恥ずかしくなり、ぶっきらぼうに「ああ」と答えた。
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