下っ端1号

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 「さぁさ、上った上った!」  昼休みになりさっそく那智は屋上に集まった三人を上に登らせた。  さやからはつい先程あと2〜3分で着くと連絡があった。  「なぁなぁ、どういう風にフるつもりなんだ?」  「それはもうズバッとバッサリ!」  そう言い那智は聞いてきた啓吾に向かってビッと親指を立てた。  「それ、見る甲斐があるな~。期待してるぞー!」  「まかせとけっ!」  啓吾はワクワクとした面持ちをしていた。  啓吾もいい子ちゃんな時はいい子ちゃんだが、悪い時はとことん酷かった。  湊のパシリの件などは“そんなこと悪いって”とか“かわいそうだ”などといい子ちゃんな感じだったが、今は悪い時で昼休みが近付くにつれて俺と一緒に楽しみだな、なんて言っていたくらいだ。  こういう啓吾の反対と賛成の境界線は、幼い頃からずっと一緒にいる那智でも未だに上手く掴めない。  「優也と湊もちゃんと見ろよ!」  那智が二人にそういうと優也は特に興味がない様子で返事をして、湊は「わかってるって」と、いつものように少し馬鹿にした言い方で返してきた。  そしてそれからすぐにさやは屋上に現れた。  三人は息を潜ませて上から那智とさやを窺っており、こちらとしては何だか楽しくなってきた。  酷いかもしれないが“目には目を、歯には歯を”だ。傷付けられっぱなしで利用されるなんて絶対に嫌だった。  そうして那智はいつものヘラヘラとした笑顔を顔に浮かべた。  その笑顔に勘違いしたさやはどこかホッとした様子で話を切り出してきた。  「あのね、那智。私、那智のことフッたけど本当はまだ、那智のことが好きでね...」  「...あぁ、急に本題だね。でもさ、言わせてもらうけどあの時さやは湊といい感じじゃなかった?」  あの時...それはさやと湊の決定的瞬間を目撃してしまった時のことだった。  「そ...それなんだけど、あれは違うの!!私、本当は嫌だったんだけど、あいつが言うこと聞かないと暴力振るうって脅してきて...だから私...」  “怖かった”そうさやは呟きわざとらしく身体を縮込ませた。  その理由とさやの行動に那智はクックと笑った。目の前の女はなんて見え透いた嘘をつくのだろうか。俺ならこの嘘で何とかなるとでも思っているのか。  「暴力で脅された?フッたのもそれが理由だって?」  「...那、智?」  段々とさやへの怒りが増し、声のトーンも下がっていく。  そんな那智に対し、さやも酷く反応に戸惑っていた。  「あのさ、百歩譲ってその話が本当だったとして」  困るさやに言い聞かせるようにゆっくりと告げる。  「どうして俺が居合わせた時に助けを求めなかったんだよ」   那智がそう言えば、さやは何も言うことができない様子で、下唇を噛み目をキョロキョロと泳がせた。  「実際は俺と別れたはいいが、当の湊は付き合ってくれなくて、焦ったお前は理由つけてまた俺と付き合おうとしたんだろ?...こっちはそんなお前の考え見え見えなんだよ」  那智の言葉にさやは羞恥で顔を赤くし、そのまま入り口のほうへと走っていき、逃げていった。  「俺はそこまで馬鹿じゃないしお人好しでもないっての」  あー愉快だ愉快。なんとも呆気ない。  先程までのさやの顔を思い出し楽しくなって笑いが出てきた。  「やるじゃん那智!俺、超興奮しちゃったよ!本当に手加減なしでバッサリ言ってたな」  一番乗りで来たのはやはり啓吾だった。  「だろ!俺だって、やればできる子だから」  そして啓吾は笑いながら降りてきて、それに続いて他の2人も降りてくる。  優也は最初から興味無さ気だったから特に感想も聞かなかった。  それよりも那智は湊の反応が気になった。  優也のように興味がない感じなのか?それとも啓吾みたいに一緒に盛り上がってくれるのか?  「なぁ、湊はどう思った?」  しかし、那智の問いに湊は予想外の反応をとった。  「どうって...こういうこと平気でやるやつだったんだって思っただけ。」  湊はまるで失望したと言っているような冷たい視線を那智に送った。  そんな湊の反応とセリフになぜか胸がチクリと痛くなった。  表ではそっかぁ、などと軽く流したが心は苦しかった。  今の俺を見て湊は俺のことを軽蔑したのだろうか...嫌いになった?  そんなこと考えると何故か余計に胸は苦しくなっていった。  もう笑っていても心からは笑えない...なにも楽しくない...  那智の中で高まっていた高揚感は一気に下がった。  — なんにも...おもしろくない。
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