彼は友達

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「相川ー、俺たちいつまでここにいんの?」 「しっ!Be Quiet!」 (…それ、何て意味だっけ?) 彼は友達 今から時間をさかのぼること約2時間半。親友のユキちゃんと一緒に行った花火大会で、同じクラスの石川に出くわした。石川も友達と3人で来ていて、まあ知ってる者同士仲良く遊ぼうということになった。 出店でいろいろ買って食べて、大きな打ち上げ花火が上がるたびに歓声を上げて、この場にいる誰よりも自分たちが一番楽しんでいる、そんな気さえしていた。 花火大会が終わって帰ろうとしたら、同じ方向だから、と石川が私を家まで送ってくれることになった。 他愛のない話をして、時にはバカ笑いもしながら夜道を2人で歩き、家の前に着いてからもしばらくの間立ち話をしていたら、カップルらしき人影が見えた。それが自分の姉であることに気付いて、私はなぜか石川を巻き添えにしてお向かいの垣根の影に隠れてしまったのだ。 高校2年の姉には同級生の彼氏がいて、手を繋いで帰ってきたラブラブな2人が家の前に着いたからといってすぐお別れするわけもなく、いや別れ難いのもわかるんだけど、迷惑なことに姉と彼氏は家の前で手を繋いだままなかなか離れない。 「相川のねーちゃん美人だなー」 「そっくりでしょ、私と」 「え?」 「…何か文句ある?」 「つーか、フツーに『ただいまー』とかいって真ん中突っ切っちまえばいいじゃん」 「アンタあの雰囲気で行けるの」 「…無理?あ」 話の途中で石川の視線が一定方向で固まった。振り返ると、視線の先に見えたのは我が姉と彼氏のキスシーン。すげー、生チュー初めて見た、と興奮気味の石川の口元を慌てて押さえたりしてジタバタしてるうちに、気付いたら逆に石川が私の手首をつかんでた。そして、とんでもないことを言い放った。 「…俺たちもしてみねー?」 「な、なななんでそうなるの」 「他のヤツよりも先にオトナの階段上ってみたくね?」 「…(ちょっと興味ある)」 「『初めてのキスは中2のとき』ってちょっとカッコいーじゃん」 「いやでもやっぱりだめ」 「なんで」 「修学旅行に行ったらきっと『キスしたことある?』とかいう話になるじゃない、で、あるっていったら今度は『誰と!』って追求されて、そのときに『相手は石川』だなんて誰にもいえないよ」 「…んなもんいわなきゃいーじゃん」 「それもファーストキスの相手が彼氏じゃなくて友達でしたなんていったら、私きっと『相川さんて見かけによらず遊んでるんだ』って噂されちゃうよ。そんなのイヤ!」 「だーかーらー、もう黙っとけ」 つかまれていた手首を引っ張られて、石川の顔が近づいてきて、もうわけわかんなくて私は目を閉じるしかなかった。唇にはふわっと柔らかな感触と甘い匂い。不思議なことに、唇が触れ合っていることよりも石川がこんなに近くにいることにドキドキしていた。 「…イチゴの味がする」 「あー、さっきカキ氷食ったからかな」 「ムードも何もあったもんじゃないね」 意外とあっけなかった私達のファーストキス。 でもキスの威力ってすごい。これまではただの友達だった石川がたった一度のキスでちゃんと男の子に見えるようになったんだから。でもこのときは、まさか2回目も3回目のキスも石川が相手になるなんて思ってもいなかった。 きっとこの先、私は石川のことを本気で好きになる。
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