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一週間後、石川のそばには何事もなかったかのように他の女の子がにいた。
その子は放課後もテニスコートに張り付いて、テニス部の練習を見ていた。きっと石川が前の彼女と別れるのを待っていて、やっと自分の番がきたと思って張り切っているんだなあ、と思うとため息が出た。
「いつも大変だね、相川さん」
振り返るとそこには高等部1年の武田先輩が立っていた。石川の1年先輩にあたる武田先輩は去年のチームの中心人物で、高等部に進学してからも1年生ですでにレギュラーを取っている人だ。大人っぽくて少しミステリアスな雰囲気を持つ武田先輩のファンは多い。そんな先輩がやんちゃな石川をかわいがっていることは知っていたけど、どうして私の名前を知っているんだろう。私は石川が付き合ってきた女の子達と違ってテニスコートをのぞきに行ったことはないのに。
「私は別に、石川の彼女じゃないし」
「そうなの?『相川睦さん』以外の女の名前をユウキの口から聞いたことはないけどね」
まあアイツもまだまだガキだからね、大目に見てやって。
全てを見透かしたような口調。石川の話にも武田先輩の名前はよく出てくる。つかみどころがないとか女癖が悪いとか言いたい放題だけど、そのわりに先輩のことを慕っているのは明らかだった。
「気付かないふりをしてるほうが、楽なんです」
あえて主語は入れなくても、武田先輩にならきっとわかる。たとえそれが曖昧だとしても、石川との接点を失うくらいならこのまま友達でいたほうがいい。ですよね、先輩?
「相川さんは、ユウキにはもったいないな」
そういうと武田先輩は私の頭をポンポンと軽く叩いてコートに戻った。
その後歩きながらちょっとだけ涙が出た。石川のことが好きだと気付いているくせにこの曖昧な関係から抜け出そうとしない自分はちっともいい女なんかじゃない。だけど今までずっと隠してきた気持ちを初めて聞いてもらえてほっとしている自分がいた。
それからというもの、武田先輩がちょくちょく話しかけてくるようになった。時々石川がこっちを見ていることも知っていたけど、気持ちが知れている分私は武田先輩と話すのが楽だった。たぶん石川と一緒にいるときより私は笑っていたかもしれない。
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