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…なかなか手間どって
「なんで出会いの時の挨拶が『ご機嫌麗しゅう(?)』で、別れの時の挨拶も『ご機嫌よう(?)』なんだろう。
上流界の挨拶って謎だよな。」
自室にいる時は、頭の上に辞書を乗せて真っ直ぐ歩けとエバの母親(女王様)から言われていて…。部屋に戻ると一番に玄関脇に置いてある辞書を頭に乗せて手洗い場に行く。
居間に珍しくケートが居て、セーラセラムを抱いて哺乳瓶でミルクをあげていた。
この居間は、最近お座りや寝返りでゴロゴロ移動ができるようになった彼の為に作った小上がりの畳スペースだ。
模擬試合が済んだら、森の城の方にも同じような畳の部屋を作ってあげようと思っている。
「お出迎えもいたしませんで…。
お帰りなさいませ、アンクレット様フィーネル様。」
「ただいまケート。」
「ただいま。セーラは、またご機嫌斜め?」
「はい。アンクレット様、お客様でございますか?」
「あ?何時ものお隣さん…と…」
「アンクレット様!狼の仔を飼うなど、ケートは許しませんからね!
どんなに可愛くても…。
まったく…この辺りに狼のいる森なんてあったかしら?」
「ケート、ケート…。」
「彼処に見える山から?まさかブレスト領の森!?」
「ケート、落ち着いて!此方、上級生クラスからのお客様。」
毎回思うが…なんで皆、私が何かやらかした前提で話すんだろ?
「そりゃ、お前が何かしらやらかしてるからだろう。
…犬。サッサと獣化を解け!
部屋の中に毛の一本でも落としてみろ…そこの男女に、全ての毛を引っこ抜かれるぞ。」
引っこ抜くより、毛皮剥ぎとった方が手っ取り早いけど。
私は言葉にはしなかったぞ。
一瞬にして目の前の仔犬は、ケモ耳の人間に変わったけどな。
「お帰りなさいませ、ダレチート様。お邪魔いたしております、アンクレット様フィーネル様。」
音もなくセドリックさんが現れた。仔犬の肩がビクッと跳ねたら、フサフサの尻尾が出てきた。ズボンに穴、空いてたっけ?
セドリックさんにも「ただいま」を言って、屋上で模擬試合について話し合う事にした。
「僕は、セーラを治癒してから行くから…先にはじめてて。」
「お茶は、私がお持ちします。ケートさんは、セーラ様についていてあげて下さい。」
屋上への階段。ふと《セドリックさんって、何時からセーラセラムをセーラ様なんて言ってたっけ?》なんて思いながら手すりの下に目をやった。
「アーク。何をしている?サッサと上がってこんか!」
ハイハイ。今行きますけどね…この部屋って、私んちなんですけどね。
キッチンから、セドリックさんの鼻歌らしき声が聞こえる。扉を開ける音もスムーズだ。
「アーク!」
此処、私んちなんですけどね。
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