彼と彼女とカーナビと

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「おー、さすがナビコ!」 「店舗情報をモニターに映します。」 「うわ!わびもさびもある。いい感じ。」  なにこれ?いつもは私だけを見ている健ちゃんが、よそ見をしている。  留美は今までにない寂しさと怒りを感じた。  健矢が見ているのはカーナビのモニターだが、なんだか違う女に目移りされている気分になった。 「画像をご確認いただき、よろしければ今夜の予約をお取りいたしますが。」 「え?ここ、一日二組限定の店でしょ?予約なんか取れるの?」 「ええ。私には、健矢さんに喜んでいただけるよう、様々な権限が与えられております。こちら、レストランの優先予約権もそのひとつです。」 「うわー、感激!ありがとう、ナビコ。」 「いえいえ。どういたしまして。」  ひとしきりカーナビとの会話を終え、健矢が留美に満足げな表情を見せた。 「留美、お待たせ。ご希望のレストランが見つかったよ。」 「・・いい。」  えー、健矢は心の中で嘆きの声を上げた。 健矢は留美がなぜ不機嫌なのか気づけなかった。 「留美のご希望が120パーセント詰まったレストランだよ。」 「やっぱ、いや!なんか、いや!」  留美がヒステリックに叫んだ。健矢は引いた、というか呆れた。  わがままだなあ、と、うっかり呟いた健矢を留美は、キッと睨んだ。  それでも健矢は怒らずに尋ねた。 「じゃあ、どこに行きたいんだよ。」 「どこ?どこって、なに!なに、その余裕!」 「なにイライラしてるんだよ~。」 「ふんっ!」  健矢が優しければ優しいだけ留美はイライラした。
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