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ウオーン、ウオーン、ガオンガオン、キキー、ガオンガオンオンオン。
荒牛のような激しいエンジン音を立てながら、黒のポンテアック・ファイヤーバード・トランザムGTAが、留美の前に颯爽と現れた。
ガチャ。
「お待たせ。」
運転席から降りてきたのは健矢。留美の彼氏である。
鼻筋がピンと通った、アイドルのように整った顔に高身長でスラっとしたモデルのような体形をしている。
ビンテージの高級外車からイケメン登場という、王子顔負けの華麗さなのに、留美はいたって普通に
「もう、遅いよ。」
と、ふてくされた。
「ごめんごめん。何気に湾岸線が渋滞しててさ。」
待ち合わせの時間に少しも遅れてなかったが、健矢は大人の優しさで謝った。
それに対して、留美は健矢の謝罪には何の反応もしなかった。
留美が怒って健矢が謝る、は、挨拶のひとつぐらいのやり取りになっていたのだ。
そんな感じで留美は健矢を軽く無視すると、あらためて黒のポンテアック・ファイヤーバード・トランザムGTAの方に目をやった。
「てか、すごっ!なに、この車、なんかすごい!」
黒くて、ゴツくて、左ハンドルが留美の思う「すごい車」だった。
「わかる?いろいろイジったからね。」
「ねえ、乗っていい?」
健矢はさりげなく助手席の扉を開けて、留美をエスコートした。
「うわー、中も本当にすごいね。」
ボタン四個以上が留美の思う「すごい」だった。
「まあね。新しいものが好きだからさ。新製品が出たらすぐ買っちゃうんだよね。」
「ふーん。」
と、健矢の話は軽く聞き流し、留美はカーナビのボタンをポチポチ押した。
そうしているうちに留美はスタートボタンを押してしまった。
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