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踏み出すとき…
車窓の景色は住み慣れた街並みから長閑な田園風景を映し出し、また新たな街並みを駆け抜けて行く。
窓に映るそれらを見つめながら、座席に体をあずけた。
いつしか景色はもう訪れることはないと思っていた駅に私を運んで行く。
そこは私の生まれた片田舎とは対照的な、大都会。
電車を乗り継いで遥々やって来たのはいつぶりだろうか。
まだ、恋に浮かれていたあの頃…
彼の住む街に、冒険のようにワクワクと心を躍らせながら来ていた、そんな気持ちがふと蘇った。
それは想像以上の人混みと慣れない喧騒に驚かされ一瞬にして掻き消されていく。
この人波にのまれたら、私なんて完璧に迷子になりそう…
そんな不安に彼がいたあの頃とは全く違うこの空間は、私を一瞬にして孤独にさせた。
「やっぱり来なければよかった…」
そんな情けない言葉が口からこぼれそうになるのをグッと堪えて奥歯を噛み締める。
行き交う人を避けた時、カサっと聞こえた自分にだけわかる音。
上衣のポケットに今日来た目的がある。
それはあの日届いた一通の手紙…
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