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年度が替わり、下級生たちがサークルに入ってきた。チャンバラの学生大会は規定上、経験一年未満の者は新人枠として出場することとなっている。つまり三池は昨年の大会後に入部したため、新入生に比べ半年分有利な条件で試合に臨めるのだ。過去に同じようにして新人賞を総なめにした例はいくつかある。三池もこの大会で名を上げようと企み、それなりに練習もしてきたのだった。
「あ、三池さん。決勝で会いましょう」
他大学の新人の成宮が声をかけてきた。成宮は今年の新人王と期待されている選手だった。狭い世界なので大体が顔見知りで、それゆえに三池もライバル視されていた。
「ちゃんと勝ち上がって来いよ」
三池は決勝しか見ていないかの如く彼に返答した。
大会は終了した。三池の結果は2種目初戦敗退、1種目2回戦敗退という華々しい結果であった。
「まあ調子が悪かったわ」
「いやあ思ったより動けんかったね」
「みんな強すぎ」
打ち上げの席で無理に明るく振る舞う三池をよそに、成宮が優勝カップで盃を上げていた。それをチラリと横目で見ると、三池は急に涙がこみ上げ席を立った。
店の外に出ると、三池は片隅で号泣した。周りの視線も気にならないほど悔しかった。
「今日の試合で、お前当たってたのに抗議しただろ?」
突然声をかけられ、振り返ると井上が立っていた。いつも通りの優しい表情をしている。
「お前が入部した時、抗議の説明したのを覚えてるか? 抗議はスポーツマンシップに則ってやるようにってね。スポーツってすごいよな。邪心があるやつは必ず負けるようにできてる。これはチャンバラだけじゃなくてね」
井上はそれだけ言うと、首から下げたメダルをチャラチャラ鳴らしながら店内へ戻っていった。
三池はその後特に目立つ戦績もないまま4年生を迎えた。しかしそれでも彼は熱心に練習を続け、その年の世界大会で金メダルを獲得した。彼が卒業して何年も経つが、学生チャンバラ界では地道な努力は必ず報われる見本として、三池は現在も語り継がれている。
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