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「メエエエエエェェェェェン」
三池の神経は研ぎ澄まされていた。相手も只者ではなく、かなりの実力者であることは対峙した時から感じていたからだ。中高と剣道に明け暮れてきた三池にとって、相手の技量を推し量るのは造作もないことだった。だから相手に一瞬の隙が生じた時、内心小躍りし、そこへすかさず打ち込んだのだった。
「コテエエエエエェェェェェ」
しかしその瞬間、相手も雄叫びを上げていた。
打ち合いが終わると残心をとり、三池は振り返った。旗は相手に上がっていた。
試合が終わるとマネージャーの桃瀬が寄ってきた。
「三池くん、惜しかったね」
「うん、あの小手はほんとは外れてたんだ」
「え、そうなの?」
三池は不本意だとばかりに首を振った。
「相手選手も下がったあと仲間に言ってたよ。ラッキーってね。誤審だよ。まあでも剣道はそういうものだからしょうがない。速くて見えないしね。ビデオ判定もないから判定は絶対に覆らない」
桃瀬はブツブツ文句を言っていたが三池の耳に入らなかった。剣道というものに急激に冷めてしまっていた。
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