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月の少女:和秋一人称
何とか、今夜は大丈夫そうで良かった。
しかし、彼女には驚いた。
僕と同じ位の女の子なのに、しっかりしている、可愛いし……ずっと見てたくなるくらい……。少し垂れた大きな優しげな目、その透き通る様な瞳、真っ白な肌……。いやいや、何を変なこと考えて。僕は、あのただならぬ状況だったから連れてきただけで、そんな……。
とりあえず落ち着こう!そうだ!それが何よりだ!
「ねえ?お腹空いてたりしてない?その前にお風呂入る?沸かすから……。」
その時だ。
その時、その瞬間、僕は一瞬だけ後悔して、一瞬にして喜びに満ちた。
「ありがとう」と不意に笑う彼女の笑顔に、胸の奥を持っていかれた。
「君は……。」
名前がわからない……もどかしい。
「なんて呼んだら良いかな?」
「どうしようね」と少し困った笑顔も素敵だと思った。でも、その気持ちなんだか照れくさくて、少し素っ気ない感じで「僕が決めちゃって良い?」と聞く僕がいた。
凄く決めたい気持ちはあった。
でも、そんな気持ちを悟られたくなくって、今はそんな事を考えている暇じゃないし、この子の事が好きかなんてまだわからないし、好きとかそういうの恥ずかしいし……。
「うん良いよ」って彼女は即答で答えた。
良かった。正直嬉しい。
さて、どんな名前にしようか……彼女を良く見た。
彼女も楽しみな様子で僕を覗き込んでいた。
その表情がまたとても可愛くてドキドキが止まらないのが解る。
どうしよう、これはかなりのプレッシャーだ。
真ん丸で大きな瞳は鮮明に僕の困った顔を映している。
とりあえず、窓の外をみた。
夜空には頂点を過ぎた真ん丸な月が帰りを急いでいるのが見える。
そうか、今日は御月見か……。
「つきみ、どうかな?月に美しいで月美?」
覗き込むような彼女の目に、パッと光が走った気がした。
その瞬間、彼女は僕の胸に飛び込んでいた。
僕の鼻先で彼女の笑顔が満ちあふれていた。
「ありがとう!」
「へ、へ、部屋で待ってて……」
僕は裏返った声で精一杯、返事をした。
・・・・・・
カップラーメンにお湯を注ぐと、沸き立つ熱気と共に香ばしいカレーの香りが漂い始めた。
しかし、そんな食欲がそそる熱気より、先程の胸に感じた暖かさに僕は心奪われ呆けていた。
「あの子は誰なんだろう?ここらへではみかけたことないなぁ……明日はどうなるのだろうか……。」
胸の温もりをぎゅっと握りしめた。
部屋に戻り彼女にカップラーメンを差し出すと、彼女はジロジロと観察し始めた。
「カップラーメン知らないの?」
「うんうん、知ってる。知ってるみたいなんだけど……初めて見た気がするの。」
「もういいと思うよ」
僕のその声に彼女は膨らませた期待を解き放つように、あはっと微笑みを混じらせ蓋を開けた。
フワッと舞った湯気。
それと共に巻き上がったのは、深い肉の香り、甘味の詰まった野菜の香り、そして食欲がそそるカレーのスパイシーな香りだった。
彼女はたまらず、目を閉じ鼻をヒクヒクとさせた。
「いただきます!」
よく混ぜ、麺を勢いよくすすり、スープをゴクッと一飲み。
「美味しいー!たぶん初めて食べたんだと思う!美味しい過ぎるもん!」
そう言うと彼女は良い食べっぷりで再開した。
・・・・・・
今、彼女はお風呂に入っている。
僕は床に敷いた布団にごろっとしている。
今日は、彼女にベッド譲った。
はぁ、それにしても明日、彼女はどうなってしまうのだろうか?
やはり、施設とかに引き取られるのだろうか?
出来れば一緒にいてほしい……かわいい……いや!かわいい妹みたいで!一緒にいて欲しいし……。
そんなことを考えて横になっていたら、いつの間にか寝てしまったのだろう。
今、僕は真っ暗な空間の真っ白な大地に一人佇んでいる。
「ここは……」
突然、目の前の白い地面が膨らんだと思ったら、白い球体を生み出し目の前に浮き上がった。
「聞こえますか?」
その球体が緑色に光始めたと思ったら何処からともなく声がした。
「聞こえますか?」
「あなたは……」
「私はあのこの母親です。詳しくは言えませんが、あの子を守ってやってください。あなたたちに託したいのです。どうか、お願いします。」
何故だろうか?
この声を聞いていると、なんだか悲しい気持ちになってくる。
はい!もちろんです。と、即座に答えたいのに、どうしてか涙がこぼれ落ち声がでない。
僕が泣き崩れたところで、目が覚めた。
跳ね起き、一階の父さんの元へかけ降りた。
すると父さんも涙の流れ落ちた後を残し呆けていた。
「父さんも夢で観たの?」
「ああ、明日、警察はちょっと待って母さんと相談しようか……学校はとりあえず休め」
正直、やった!と思った。
「明日、帆夏に服を借りてくる!」
ちょうど、月美がお風呂を終えてリビングに出てきた。相変わらずの少し大きめな僕のTシャツとハーパンを着て。
「月美、明日、警察行かなくて良いって!」
「本当に?」
彼女はまた僕の胸に飛び込んだ。
そうとう嬉しかったのだろう、彼女は腕を僕の背中まで回し力強く締め付けていた。
「おいおい、和秋!先ずは母さんと相談っていっただけで……。」
しかし、父さんも僕の脇から見せた彼女の満面の笑みには勝てなかったようで……。
「かあ~もう~わかったよ~。今日はもう早く寝ろ!」
「お休みなさい。」
僕らは部屋に戻った。
彼女をベッドに寝かせ、僕は床の布団に寝転んだ。
「ねえ、少しでも覚えていることはないのかい?どこから来たとか?」
「うん、全くわからないの……」
「僕が思うに、たぶん君は月から来たんじゃないかと思うんだ」
「そんなことってあるの?私、記憶は無いのにこの世界の事はなんだか知っているみたいなの……さっきだってお風呂使えたし……月の事だって宇宙にあって人が住めない位は知ってるよ?」
その通り、その通りだけど……不思議な事が起こり過ぎていて、万が一と思ってしまう。
「まあ、夢があって良いじゃん?」
すー、すー、と寝息が聞こえる。
僕も寝るかと、目蓋を閉じた。
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