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トイレの窓から差し込む日の光に、すでに時刻は朝になっていることを気付かされた。しかも、夜明け近くというのではなく、もうかなり高く日が昇っているような。これはヤバい、トイレに篭ってる場合じゃない! 妻がパートの仕事に出かけ、娘が登校する前のこの朝の時間帯は、それこそトイレの奪い合いになるのだ。そして私の順番は、もちろん後回しにされる。そんなところに関してもこの家は「女性上位」なのだ。
順番が回ってくればまだいい。何度妻や娘にトイレを独占され、尿意を我慢しながら会社に出かけたことか……いや、そんな感傷に浸っている場合ではない。これはおかしい。私が吐き気を催してトイレに駆け込んだのは昨夜の夜中過ぎだ。それから私が、家に一つしかないこのトイレをずっと占領していたのだ。妻や娘、母親までもが狂ったように「早く出てきなさい!」とドアを叩きまくっていてもおかしくないのでは……?
その時。私の脳裏に、あの悪夢が蘇った。私の口から吐き出された、無数の虫たち。まさか私の家族が、あの虫どもに襲われてしまった、とか……?
つい先ほどまでは、あれが悪夢だった方が納得がいくと思っていたのだが。この朝方の不自然なまでの静けさは、私がトイレに篭りっきりになっていても何の騒ぎにもなっていないこの状況は。私が虫たちを吐き出したことを、現実のものだと思わせるのに十分だった。あの虫たちの大群に襲われ、私の家族は食い尽くされてしまったのではないか……!
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