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数度の嘔吐で、何十匹……いや、もしかすると何百匹にも及ぶかというくらいに膨れ上がり、トイレの中を我が物顔でザワザワと這い回っていた虫たちは。その最後の一匹が床に着地するとともに、一斉にドアの下から「ざざざ~~っ!」と外へ出て行った。つまり、私の家族が寝ている部屋のある、アパートの室内に向かって。
それを呆けた顔でただ見届けていた私は、何かしなければ、この虫たちをどうにかしなければ……と思いつつ。そこで遂に体力も精神も限界が来たのか、便器のフタをパタンと閉めると、そこに顔をぶつけるようにして、そのまま気を失った。
それから、どのくらいの時間が経ったのか。私は、便器のフタに突っ伏したままの格好で目を覚ました。吐いたものが口の周りにべっとりとこびりついていたので、それがフタに張り付き、顔を上げようとした時「べりっ」と皮膚が剥がれるような感触を覚えたが。
寝ぼけつつ、その痛みに頬をさすりながら、先ほどのことは夢だったのかもと思い始めた。確かに自分が吐いた跡はあるが、数え切れないほどの虫たちが這い回ったような名残は見受けられない。……そうなんだ、私は体調が悪くて、あんな馬鹿げた悪夢にうなされてしまい。それをあたかも本当に起きた事のように感じてしまったんだ。そう考えた方が納得がいく。間違いない。あんな大量の虫を人間が吐くなんて、そんな馬鹿な。そう、自分に思い込ませようとした時。
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