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「おい、大変だ! 母さんが……」
すると。またもや私の言葉が終わらないうちに、娘が私に飛び掛ってきた。妻と同じく、鬼神のような表情で。「うええええええ!」と、なにかケモノのような雄たけびを上げる娘から、「ひええええ!」と情けない悲鳴を上げて逃げようとした私は、背後から尚も執拗に襲いかからんとする妻と娘との挟み撃ちになってしまった。これはいかん。私は咄嗟に、床に這いつくばるように身を伏せた。
がつうううん……!
見ていなくとも、こりゃ大量の星が目から飛び出しただろうなというステキな音が私の頭上で響き。妻と娘は、身を伏せた私の上で、お互いの頭を見事に激突させていた。両手で頭を抱えてしゃがみ込む妻と娘を尻目に、私はとりあえず玄関に向かって走り出そうとしたが。玄関の手前に、それが最後の砦でもあるかのように、私の母がすっくと立ちつくしていた。母の顔がまた鬼神のように変貌する前に、私はその目前から逃げ出した。
なんだ、いったいどうしたんだ? 私の家族に何が起こったんだ。昨夜からトイレを占領していたことがそんなに腹が立ったのか。それならそうとひとこと言ってくれれば。いや、あの鬼のような顔つきは、そんな理由からではなさそうだ。
私はとりあえず、女三人が昨夜も盛り上がっていた居間に逃げ込んだが、さて、この後はいったいどうすれば……と何か策を練ろうとする暇もなく。母親が玄関口の方から、そして妻と娘がまだ頭を押さえながら台所の方から居間に入ってきて。私は完全に逃げ場を失ってしまった。遂に獲物を追い詰めたケモノのように、母と、そして妻と娘は、じりっ、じりっと私との感覚を狭めつつあった。
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