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私は、この切羽詰った状況になんとか対処しなければ、何かを言わなくちゃならないと考えたのだが。いい考えは浮かばなかった。そこで、苦し紛れに口をついたのがこの言葉だった。
「おい、みんな、とりあえず落ちつこう! 落ち着いて話を聞いてくれ!」
……余りに間の抜けたその言葉が、効果を上げるとは思えなかったが。案の定、女三人は耳を傾けるつもりはさらさらないようで、ますます私との距離を詰めてくる。
「みんな、どうしちゃったんだよ! いつものみんなに戻ってくれよ!」
私は三人の顔をかわるがわる見つめながら叫んだ。すると。先ほどから鬼のような表情で、ケモノのような唸り声しか上げなかった妻が、初めて「言葉」を口にした。
「何が、“いつものみんな”よ! さっきは私たちがいなくなって、ほっとしてたくせに!」
ぎくっ!
私は虚を突かれたのと、まさかの図星を突かれたのとで、完全にうろたえてしまった。
「いや、それは、あの。うううう……」
その後に、「なんでわかったの?」と言おうとして、それはまさに語るに落ちるということだなと、思わず口ごもってしまったのだが。それが更に女たちの怒りを買ってしまった。
「わかるんだよ、私たちには!」
妻が叫んだ。いや、わかるんだよって言われても。そこで私は、はっと気がついた。昨夜私が吐いた、あの虫たち。妻も娘も、そして母親も。やはりあの虫たちに襲われたんじゃないか? で、虫たちにそのまま意識と体を乗っ取られてしまった、とか……?
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