毒虫

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 思ったとおり、女たちは私に対抗すべく、手に手に武器を持ち始めた。妻はいつも使い慣れている馴染みの良さからか床を掃くほうきを、娘は高校に入ってから入部したと思ったら半月も経たずにやめてしまい、それっきりどこかにしまい込んでいたテニスのラケットを久し振りに持ち出し。そして母親は、掃除の時にずっと昔から好んで使っていた「ハタキ」を……って、母さんそれは武器にするにはいささか心元ないんじゃないかと思ったが、そんな余計なことをつい考えてしまう自分が情けなかった。 「なに言ってんだよ! これだって立派な武器になるんだよ!」  はいはい、そうですか。言ったんじゃなく「考えた」んですけどね。母親の言葉をまともにとりあってる暇はない。私は私で、自分の武器を探さなければ。とはいえ。何にするか、やはり包丁が一番「殺傷能力」は高いのだろうけど、ちょっと血なまぐさいし生々しい気がする。フライパンとかでひっぱたくのがいいか……いやいやいや、こんな風に「考えて」はいかんのだ。さっき娘を咄嗟にお皿でひっぱたいたように、反射的行動でなければ。全て女たちに私の考えが読まれてしまう。  だが、考えずに行動するということの難しさが、私は今初めてわかった。考えまい考えまいとすればするほど「考えて」しまう。そうこうしているうちにも、女たちは容赦なく私に挑みかかってくる。とりあえず歳のせいかやや動きの鈍い母親はおいといて、若さ溢れる娘から相手にすべきか。いやいや、部活にも入らずバイトもせず、怠惰な生活を送っている娘よりも、ヒマさえあればアパートの主婦連中と色んなレッスンに通っている妻の動きを警戒すべきかも。……などと、考えてはいかんのだ! なんてややこしい……。
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