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私は結局手近にあったフライパンを右手に、まな板を盾のように左手に持ち。妻のほうき攻撃と娘のラケットアタックをなんとか防いでいたが、そこから反撃に出ることは出来なかった。
普段から格闘技でもたしなんでいればまた違うのだろうが、しがないいちサラリーマンでしかない私は、どうしても次の行動を「考えて」しまうのだ。妻のほうきをまな板でかわしつつ、右足でケリを入れ、次なる娘のラケットを……といった具合に。そうして物事を順序立ててきちんとやっていく、子供の頃から割りと几帳面な性格だったのが、こんなところで災いするとは。
夏休みの宿題なんかも、休みが残り少なくなってから、慌てて帳尻合わせをするのではなく。休みの頭から計画を立ててきちんと消化していた。皆が一日遊び呆けている時も、その日の課題をこなすため先に帰ったりしていたのだ。なので逆に始業式まであとわずかと迫った頃には、みな残した宿題をやっつけるのに忙しく、私一人遊び相手がいなくて寂しい思いをしたり……そんな、「まっとうにやっているはずなのになぜか寂しい思いをする」日々を過ごした幼少の頃の記憶がふと蘇り、何か無性に切なくなってしまった。
なんだって私がこんな思いをしなけりゃいけないんだ。「きちんと考えて行動する」ってことが、そんなにいけないことなのか。だから妻も娘も母親すらも、私のことを「つまらない人間」だと拒絶していたのか。本能のままに行動する、欲望のままに生きていく。それこそが「正しいこと」だって言うのか……?
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