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「やりやがったな!」
それを見て娘が勢いよく飛び掛ってきたが、私はヒラリと身をかがめてそれをかわし。
「も~ろ~びと、こぞ~~り~て~~」
何度目かの一番を歌いだしながら、ラケットを振り回してガラ空きになった娘の背中めがけて。
「むか~~い、ま~~つれ~~!」
歌のリズムに合わせて体をくるりと反転させ、フライパンを打ち込んだ。
「ふぎゃあ!」
娘はネコが踏んづけられたような悲鳴を上げて、そのまま壁に激突した。
「ふふんふんふ~~ふふん、ふふんふんふ~~ふふん」
私は今や心の中だけでなく、その部分を鼻歌で声に出して口ずさんでいた。そのことが、この上なく心地よかった。今まで私を拒絶し続け、屈辱を与え続けていた女たちに、この手でお返しをしたという紛れもない事実に。私は多分、酔いしれていたのだ。快感を覚えていたのだ。鼻歌はその気分に、たまらないほどマッチしていた。
ヨロヨロと起き上がろうとした妻の脳天に、もう一度思いっきりフライパンを叩き込み。続けて、壁際で悶絶していた娘にも同じくもう一発。この二発で、妻と娘は完全に動きを止めた。打ち所が悪くてあの世へ召されたのか、気絶しただけなのかはわからないが。ともかく、もう私に襲い掛かる「敵」ではなくなった。残るは、私の実の母親だけだった。
「しゅは、きま、せ~り~~……」
私は尚も歌いつつ、味方を失いややたじろぐ母親に、今度は私の方から近づいた。それまであの鬼神のような表情を浮かべていた母親は、急に何か訴えるような切ない目つきになり、そして私に懇願を始めた。
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