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すると。突然、私の全身を、とてつもない悪寒が襲った。いや、それは猛烈なる敵意とでも言うか。私の全身を包み込み、更に体をバラバラに引き裂き、剥きだしにされた心臓を貫かんとするかのように。その敵意は私を押しつぶすかの如く襲いかかってきた。これは……これは、この部屋の中から来ているのではない。部屋の外から、私を敵視する奴らが思念を送り込んでいるんだ!
そこで、私は思い出した。昨夜、私が吐いたのは、虫の「大群」だった。しかし、私の家族から吐き出された虫は、女三人合わせても十数匹くらいのものだろう。すると、残りの虫たちは……そうだ。昨夜のうちに我が家を出て、このアパートの住人たちの元へ行ったのだ! そして、住人たちを乗っ取った。今やこのアパート全体が、私の「敵」なのだ……!
しかし。私はそのことを、恐れる気持ちにはならなかった。むしろ何か、先ほどまでのように大声で笑い出したい気分だった。いいだろう。どこまでも、「母体」である私を追い詰めようというのか。どこにも逃がさないつもりか。そっちがその気なら、こちらもやるだけだ。
私は再び台所へ向かうと、今度はためらいなく包丁を掴み。そして、持てるだけの武器を装備した。娘のラケットを背中に刺し、妻の持っていたほうきもヒモで結んで腰に巻きつけ。母親のハタキは……これは、いいだろう。このまま母の横に置いておこう。これが、母の墓標だ。私は大きく深呼吸をすると、我が家の玄関口に立った。先ほどよりも更に強烈な敵意が、ドア越しに私に襲い掛かってくる。さあ、いくぜ……!
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