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もう、この三人に何か話しかけようとすること自体が不可能だと悟った私は、なんとか自力で救急箱のありかをつきとめ、きゃっきゃと盛り上がる居間の喧騒を尻目に、寝室に入り薬を塗ることにした。しかし、普通の家庭なら、夫の母親と妻というのは、嫁姑の争いみたいなものがあるもんじゃないのか? もちろんそれがあったらあったで、かなり面倒くさいことになるんだろうけども。
家族仲がいいのは結構なことだが、なにか女性たち三人は、私に対する嫌悪感みたいなもので意気投合しているようにも思えるのだ。しかし、それはあまりに被害妄想というものかな……私はそれ以上自分の惨めな立場についてあれこれ考えるのを止め、上着を脱ぎベッドに腰かけ、ワイシャツの袖をまくってみた。すると、会社で見た時よりもその腫れは更に大きくなり、そしてグロテスクなくらいにどす黒い赤みを帯びていた。
「うわ……!」
それは自分の腕でありながら、自分で思わず目をそむけてしまったくらいだ。どくん、どくんという血液の流れに合わせて、その腫れがドクドクと息づいているようにも見える。なんだかこのまま腫れが肥大化していって、人面瘡みたいになってしまうのではないかと思えるくらい、それは不気味なものに成長していた。
これはほんとに性質の悪い虫にやられたんだな。むやみに市販の軟膏などを塗ったら、なんとなく逆効果になりそうな気もしたが、何もしないよりはましかなと、私はとりあえず左手の指先に軟膏をつけ、その腫れに「ちょい」と触れてみた。
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