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「うわあ! ……つつ……!」
薬がほんのわずか腫れに触れただけで、びっくりするくらいの激痛が右腕を襲った。まるでその行為自体を、腫れそのものが拒絶しているかのように。これは相当ヤバいのかもしれない。しかし、やっぱり薬くらいは塗っておかなくっちゃな、良薬口に苦しというし。この場合にその例えが適当なのかどうかは別として、私は「あつつ!」「ふう、ふう!」と軽く悶絶しながら、自分の右腕と格闘を始めた。
薬を塗った部分が熱を帯びたように熱くなっていたので、腫れた箇所をアツアツの味噌汁を冷ますみたいにふうふうと吹いていると。やっと例のドラマを見終えて、今日も面白かった、盛り上がった~~! と、こちらも熱に浮かされたように顔を上気させた妻が寝室に入ってきた。しかしその上機嫌な顔は、私が醜く腫れ上がった右腕をさらけ出し、それをふうふう吹いている現場を目撃したとたんに、鬼の形相に変わってしまった。
「あなた、それなに? やだもう、気持ち悪い!」
自分の夫をまるで化け物よばわりするその言葉に、日頃の冷たい扱いには慣れ親しんでいる私もカチンときたが。言われてみれば、確かにこれは気持ち悪い。明らかにそこらにいる蚊などではなく、もっと悪質な毒を持った、野性味溢れる虫に食われたような痕だ。自分の腕だからまだ触ったり出来るけども、他人のものだったらちょっとためらわれるかもしれない。いや、「他人」って。私と妻は一応「夫婦」のはずなんだが……。
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