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 男が味わった苦悩、そして絶望。そして、私の娘を殺してから、復讐の最終段階を迎えるまで逃げ回った二年間。それが、この男の感情を殺してしまったのか。こうして復讐の対象がもがく様をみても、その表情に何の喜びも浮かび上がらないほどに。まだ十歳になったばかりだった少女があんなにも泣き叫ぶ姿を、自らがした悪魔のような諸行をモニターで再び見ても。その表情に何ら変化が起きないほどに……。 「まあ、俺が今こうして復讐を完遂出来るのも、言ってみりゃあんたのおかげだけどな。あんた、警察が容疑者を絞り出そうとしている時、自分に恨みをもつような奴の心当たりを聞かれた時に。自分が『営業で騙した相手』のことを、黙ってたろう? そんなことを言ったら、自分の社会的立場に傷がつくとでも思ったんだろう。  あんたは娘を殺した犯人を捕まえることより、自分の地位を守ることを優先させたんだ。そこであんたが正直に言ってれば、俺を容疑者として挙げることも、出来たかもしれないんだけどな……!」  男の言葉に、私は、我が身を呪った。自分の浅はかさを。自分の身勝手な思い込みを。そう……私は、警察に言わなかった。自分に恨みを持つような奴の心当たりを。営業成績を上げるため、騙してきた、何人もの人物の名前を……!   怖かったのだ。それを当たり前のようにやってきた私にとって、それが「恨みを持たれる」原因になるということを、認めることが。それで、自分の存在価値までが失われてしまうと、そう思えたのだ……。
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